2016年10月13日木曜日

文明と病気 上 シゲリスト 7

トピックスとしては、
・科学的な知識が進んだだけで、公衆衛生の対処の仕方ってのは根本的に変わってないぜってこと。
・自由主義の限界には限界があるんだぜってこと
・我々は工業的に分化したため依存しあい、ちょっと我慢しないと最高を目指せないんだぜってこと


前回

◆病気と法律は、歴史の過程ではいろいろの点でその関係が現われていることに疑いがない。
◆伝染病の場合には病人は自分の同僚の健康に直接脅威となる。したがってその病気の成員を立法の直接の対象とし、社会は自身を保護するよう努力した。
◆多くの原始人は、ある種の病気は伝染性であるという非常にはっきりした考えをもっていたし、死人に対するタブーと同じく、それらの病気に苦しめられている者にもタブーが適用された

◆14世紀に黒死病、腺ペストおよび肺ペストが西欧側の世界に侵入して恐ろしい惨禍をもたらした時、ペストを制圧するため立法がなされた。これらの古い中世の規則派なお現代の多くの伝染病に対する対策の基礎をなしている
◆患者が死ぬとペストの家は消毒された。中世では乱暴なやり方で行われた。今日では最近を殺すもっと有効な化学的、物理的方法をもっているが、その基礎をなしている考えは同じである
◆ペストが流行している国から来る旅行者はみな、きよめるためメルカナ島で一月過ごさないうちは都市へはいれないようにした。ベネチアはそれを手本として海外の旅行者をサン・ラザロ島に隔離した。その期間は40日にのばされ、検疫停泊期間(quarantine)という言葉は中世に始まった最も重要な伝染病予防手段の一つであ

◆ペスト、コレラ、黄熱およびインフルエンザが発生した所では、戦争と同じように社会が召集することのできるあらゆる国家権力の動員を必要とする
◆病気の原因、性質および治療について知られていることが多いほど、政府はより効果的に行動できた。しかし政府が現在の知識を活用することができるか否か、またいかなる方法によるかを決定するのは政治哲学であった。

◆イギリスでは主権は王、貴族および会員議員たちにあった。公衆衛生の問題について議会で多くの法令が制定された。
◆自由主義は各人の個人的な自由を過度に侵害することなく、健康増進するように努力した。この原理に基づき前世紀の中葉頃イギリスに大きな公衆衛生運動が生まれた
◆イギリス風のやり方は啓蒙と説得、公衆衛生におけるドイツのやり方は警察力によって健康を押し付けるのだと時によっては言われている。この言い方には若干の正しい点もあるが、事実をあまりにひどく単純化しすぎている。イギリスの公衆運動は国家権力を十分に利用した。
◆自由主義的な態度は、わずかの民衆しか持っていない政治教育の高い水準と社会的責任の認識を前提としているから、公衆衛生の分野に置いてそれには重大な限界がある。

◆1896年までドイツでは免許を受けた医師だけが法律上医術を行うことができたが、この年新しい営業法すなわち営業を規制する規定により、やりたいと思ったものは誰でも自分で医師と呼ばない限り医術を行い、それに対して報酬を得ることが許された。
◆当時盛んに批判されたこの奇妙な規定はルドルフ・フィルヒョウの自由主義によるところが大で、彼は各人は自分自身の治療者を選ぶ権利自由を持つべきであると言明し、それを正しいとした。民衆が道理をわきまえていれば、真の医師といかさまの医師とを区別できるだろうと付け加えた。

◆自由主義の限界はまたアングロサクソン国とかスイスの数州で見られる予防接種法の制定に対する抵抗において明白である。後に本当に重い病気にならないよう自分と他人とを守るため、ほんの軽度で数日間ではあるが人為的に病気にされることにより各個人の自由は重大な危険にさらされると思われた。
◆しかしその利益は明白であり、受けた不都合は非常に小さいから、社会的に進歩した民衆は躊躇しないで種痘と他の免疫技術を受け入れるであろう
◆性病の矯正治療に対する抵抗は自由主義の誤解による。その結果、こうした国における性病の患者の数は、治療が各人にとって無料であるが義務的である国よりはるかに多い。

◆高度に分化した工業社会においては、我各人は互いに依存しあっていて、最高の自由を保持し守るためには、小さい自由を犠牲にすることを覚えなければならない。


つづき
その8



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