2016年9月6日火曜日

世界医師会長マイケル・マーモット日本講演書き起こし その3

前回
その2

 健康における格差、不平等は、社会における不平等を反映しています。全ての社会にこういった格差、不平等は存在しているわけです。これは既に狩猟民族ではありませんので、非常に複雑な社会の中で今生きています。誰もが同じ収入、あるいは同じステータスというわけではありません。ということで、収入、ステータス、社会的な地位、こういったところに格差は存在しています。したがって、それに応じてある程度の健康の格差はあります。しかし、その度合いが違うわけです。

 例えば女性で見ると、その格差は男性よりも大きいということが分かります。15のヨーロッパの職業において、データを取りました。25歳における○○です。これを教育水準別に見ています。ISCDEというのは国際的な分類ですけども、5から6と書いてあるのは大卒という意味です。0から2というのは初等教育だけという意味です。イタリア、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、こういった国々においてはご覧のように平均余命が比較的長く、そしてギャップ、つまり格差も小さいということです。教育レベルが高くても低くてもそれほど違いはありません。しかし、元共産主義の国々、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、エストニア、こういうところを見ていきますと、平均余命がより低い、そして更に格差もより大きいということになっています。

 つまり健康格差というのは国によってその度合いが違うということです。イタリア、スウェーデンのような形、フィンランドのような形にもできれば、あるいはブルガリア、ルーマニア、ハンガリーのような状況もあり得るということです。そして、既にこの格差を是正する方法というのは明らかになっています。例えば社会的な支出ということで、国の予算としてどれだけの支出を社会保障に対してしているかということです。こちらは教育水準、そして初等教育、中等教育、高等教育ということで、男性女性で分けて見ていますけども、国の支出が少ない場合はこうなります。逆に国の支出が大きい場合はこうなります。そしてこちらは女性の方ですね。格差というのはほぼ無くなるということが分かるわけです。国の支出が大きければ格差はゼロに近くすることができます。

 さて、私のhealth gapでも書きましたけども、6つの領域というものがあると思います。子供達に最良のスタートを切らせるということ、そして生涯学習、教育を提供する。また、公平な雇用、良い仕事を全員に対して提供する。そして最低限必要な健康を達成するための生活水準を保持できなくてはいけない。そして、健康で持続可能な地域社会を作る。また健康にするための役割と、そしてインパクトについて強化していくということであります。細かいところは割愛しますけども、1つお話したいことがございます。

 WHOのSDHの委員会において、私が議長を務めまして、2008年に報告書を発行しました。そのときに、豊かな国と、それから貧しい国、それから中所得国ということで、健康格差の比較をしていたわけです。スコットランドのグラスゴーのカルトンという非常に貧しい地域ですけども、男性に関しては54歳という平均余命です。そしてレンジという豊かな地域においては82歳なのです。28年も差が男性の平均余命においてスコットランドの1つの都市の中でもあるということです。そして、この症例ですけれども、実は警察官の方が殺人事件を取扱っていて、そのときに発見したことなのです。警察官の数を100人増やすのではなく、健康関係の専門家を増やして欲しいということでした。つまり子供が育つ時期にそういった健康に関する専門家がかかわっているほうが警察の数を増やすよりも効果的であると彼は言ったわけです。

 さて、ジミー君ですが、シングルマザーが育てていました。そして複数の男性のパートナーが順番にいて、それぞれ身体的な虐待、そして性的な虐待などを行っていました。学校では問題児でした。そしてもう少し年をとりますと不良になりまして、ギャングのメンバーにもなり、暴力にも関わり、きちんとした仕事に就くこともありません。警察にもよく顔を知られていました。そして少しでもお金が懐に入ると、それを使って飲みに行ってしまう。そしてパブの食べ物しか食べていない。ファーストフード、アルコールしか消費していないということです。そして、アルコールによって非常に暴力的になります。インドの平均値よりも短い平均余命ということになってしまいました。

 世界の多くの地域において、政治家はこのように言うでしょう。貧しい人々は自分たちが不健康になっても、それは彼の責任である。ジミー君は自分のことしか○○できない、もっと健康な食事をすれば良いではないか、求職すれば良いではないか、ドラッグを止めて、そしてきちんと真面目に仕事を探して、彼女を殴るのを止めて、きちんとした行動をすれば良いではないかと言うでしょう。これまでの厳しい人生、子供の頃は虐待をされていたわけです。そしてギャングのメンバーにもなったわけです。貧困の中で生きてきたわけです。これがそうでなければ、つまり、もっと安全な子供時代を過ごすことができれば、きちんとした教育を受けていれば、その後は確かに喫煙とか飲酒というのは彼の好みで選べるのかもしれませんけども、ジミーの場合はそうではありません。彼は選んだわけではないのです。

 さて、このような人生を過ごしたことのインパクトはどうなのでしょうか。認知機能にどのような影響があるのでしょうか。これは、国語と数学、7歳ですね。リスクファクターを右に挙げていますけれども、リスクファクターが多ければ多いほどこの読解力も数学の能力も低いということであります。例えば、母乳で育てられていないとか、母親がうつであったとか、片親であった、家庭の収入が低かった、あるいは親が失業していたなど色々なリスクファクターがあります。つまり、読解力が低い、そして算数ができないということになってしまうと、その後の学業の成績も悪いわけです。そして学校の成績が悪ければ、良い仕事には就けません。もちろん良しごとに就けなければ、もちろん低所得になってしまいます。そして逆境で生きなくてはいけない、そしてそれが全て不健康につながるわけです。

 そしてこれらの要因、リスクファクターの全てが予防可能であり、予防することができればこの健康格差を大きく是正することができるはずなのです。ということで、子供時代という話、そして教育という話をしましたけれども、次に健康な生活をするために最低限必要な収入を考えて見たいと思います。計算をしてみました。どれくらいの収入があれば健康に暮らすことができるのか。健康な食事、清潔な家に住むとかですね。高齢者の場合には十分に収入があって、例えば孫のためにプレゼントを買ってあげるということも重要になってくるわけです。お金が無くて、孫達にプレゼントを買ってあげられないというのは、これは非常に惨めな状況です。尊厳がありません。尊厳がなければ健康な生活もできないと我々は考えています。

 こちらは英国イングランドの数字です。2008年・2009年から、2012年・2013年までの期間でそれぞれ見ています。ご覧のように、この閾値未満ですね。ここの部分がパーセンテージとしては増えています。彼らがブレクジットに票を落としたわけです。ロンドンにおいてもこの比率は上がっています。これによって健康における不平等にも影響があるということです。

 さて、health gap、健康格差という私の本から引用したいと思いますが、チリのパプロニ・ルーダという○○。そして彼は私と一緒に立ち上がって、この悲惨さの仕組みと戦うと言っています。しかし、この悲惨さの仕組みというようなタイトルでは本は売れないだろうと出版社に言われまして、だったら希望の仕組みはどうだろうと言いました。少し分かりにくいけれどその方がまだ分かり易いということで言われましたが、私が言いたいのは健康を増進し、健康格差を是正する方法ははっきりと分かっているのです。ヨーロッパのSDH、そして健康格差のレビューをしたときに弱ったのが、この健康格差というのは不必要であり、不正であるということです。ちなみにこの写真ですけれども、スペインのマドリードで抗議をしている写真です。失業率が50%以上、ギリシアでは60%以上、イタリアでも40%と言われています。若者です。一生懸命勉強した、勤勉に頑張ってきた、そうすれば明るい未来が開けると思っていたんだけれども、そうはなっていない。仕事が無いということで抗議をしているのです。我々に約束された未来はどこだということです。

 これが公衆衛生の時限爆弾です。若者が卒業しても、きちんとした職に就けないということになってしまうと、生涯的に社会から阻害されてしまう、そしてそれによって不健康な状態に追いやられてしまいます。きちんとした社会的な○○、社会的な包摂、また高齢になった時の平等ということが重要になります。その為には社会的な様々な階層のレベル全てにおいて対策が必要ということであります。そしてヨーロッパの地域においては、これは旧ソ連の、例えばウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、トルクメニスタン、こういった国々、他にも何とかスタンというのがいっぱい入っていると思うのでうすけど、そういったところも含まれています。このSDHに関してきちんと対応していない国であれば、何か少しでもやって下さいというのがDo Somethingです。そして真ん中のポーランド、チェコ、ハンガリー、こういったところで少しやっているのであれば、もう少しそれを拡大してやって下さいというのがDo Moreです。そして、高所得であって、素晴らしいことをやっているのであれば、それを更に上手くやって欲しいということです。北欧諸国というのは、おそらく最も真剣に私のメッセージを捉えてくれておりますし、様々な仕組みを実際に構築してくれております。

 おそらく日本においては、ちょうど北欧諸国のようにもう既に達成を遂げているので、さらに改善して下さいということで、Do Something,Do More,Do better,Thank you.

つづき
質疑応答





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