2016年9月6日火曜日

世界医師会長マイケル・マーモット日本講演書き起こし その2

その1
http://bunkeiiryonohondana.blogspot.jp/2016/09/blog-post_98.html


 さて、それではここからドメスティック・バイオレンスの話をしましょう。そしてそれを逆境的児童期体験に絡めて見たいと思います。ある調査で逆境的児童期体験が調査されました。それは言葉による虐待、身体的虐待、それから性的虐待と言っていますが、それはまた成人してから子供の頃を想起してもらった結果です。言葉による虐待を受けたということを覚えている人たちは18%、身体的虐待を15%が覚えていました。6%は性的虐待を子供のときに受けていたと言っています。また両親の離婚、これも逆境的な体験です。24%が経験をしておりました。また、13%はドメスティック・バイオレンスを目撃していました。12%は家族の中に精神障害の人がいた、10%はアルコール中毒者がいた、4%は薬物中毒者がいた、4%は家族の誰かが投獄されたと言っています。

 こうした数値を見ていますと、これは英国のデータなのですが、アメリカのデータもよく似ています。日本はことなるかもしれませんが、人口の9%が4種類以上ものこうした逆境的体験をしていました。16%が2種類から3種類、これは重要なことではないのでしょうか。4種類以上のこうした体験をしている場合、過度な飲酒を行う確率が2倍になります。喫煙率が3倍になります。16歳未満でセックスをする割合が5倍になります。10代で妊娠する確率が6倍になる、妊娠するあるいは妊娠させる両方含みます。それから、過去1年間で暴力絡む割合が7倍になります。ヘロインとか、あるいは覚製剤を使うあるいは投獄される可能性が11倍になります。すなわち4種類以上の逆境的な児童期体験をして しまうとこのようなインパクトが待っているということになるわけです。

 現状こうした体験は避けることができると思われますが、そうすると何ができるかということ、10代の妊娠ですとか未成年の喫煙であるとか過度な飲酒をこれだけ減らすことができると、更には暴力の加害者になることを50%軽減できると言われています。さらに、こちらはDVの被害者の割合です。半分にできるのです。こうした児童期の体験が無ければこれだけ減っていたということです。ということで、逆境的児童期体験をした場合にはドメスティック・バイオレンスの被害者になりがちであると同時に、加害者にもなりがちであるということです。また投獄される割合であるとか、あるいは正しくない食事の摂り方であるとか、そうしたことがすぐ低下するということです。社会的なアクションを取ることによって減らせるはずであるということです。

 また、ドメスティック・バイオレンスの割合ですが、世界において高所得においては23%がドメスティック・バイオレンスを申告しています。37%というのは地中海地域、アフリカが35%、グローバルで見て、35%近くがドメスティック・バイオレンスを経験しています。これは公衆衛生の問題です。しかも、そのうちの42%は復讐をします。殺された女性の38%は、その加害者がパートナーであるというのがグローバルな数字です。ちなみに男性の場合ではそれが6%になります。男性はその通りでお互い打ち合うことの方が多いのでしょう。しかし、殺された女性の38%は、なんと自らのパートナーに殺されているというのが世界的な数字です。

 また、既婚女性でドメスティック・バイオレンスを受けた女性です。教育レベルによって変わります。ほとんどの国において教育レベルが高いと、インドの場合はこのようにDVに曝される割合が減ります。ハイチは例外なのですが、一般的に見て教育レベルが高くなれば、女性がDVに曝される確率が減るのです。医療従事者としての私たちはこうしたことを心配すべきだと思います。しかし、私たちにできることは限られています。

 こちらを見て下さい。こちらは既婚女性で殴られても仕方が無い、すなわち夫からのセックスの要求に応えられなかった場合、殴られても仕方が無いと思っている女性です。グローバルヘルスの中で、1つ重要なことがあります。それは文化に対してセンシティブであるということです。文化による違いがあります。これもその例です。人権に対する尊重があったとしても、文化に対する感度は高めなくてはなりませんが、その文化の中で何が行われているかということを無視することはできません。どのような状況においても、女性を殴るなど、自らのセクシュアリティをコントロールしようとして殴られるということなど許されて良いわけはありません。こちらでも教育レベルが高ければ、そのような目に合わずに済むということが示されています。だからこそ、教育者がDVを予防するのに一番大きな役割を果たすのです。こちらは健康のアウトカムに対するDVの影響です。低体重出生であるとか、梅毒、HIVウイルス、クラミジア、淋病、アルコール中毒、うつ病、人工中絶、自殺と、こうしたものがいずれもDVによる影響を示しています。人工中絶もそうですし、自殺にあたっては4倍もその割合が高まることが示されています。

 一体何ができるでしょう。予防、保護が必要です。人権、尊厳の尊重が必要です。少年少女の教育、ピアラーニング、弱者の特定とその保護、コミュニティヘルスサービス、司法・警察へのアクセス。

 実は今日何人かの方とお話をしていたのですが、消防士の話をしました。SDHの世界においては消防士は非常に重要な役割を果たします。バーミンガム、これはイングランドの中西部ですけど、消防士のトレーニングを行っていて、誰かの家に入った場合には、警報機を取り付けたり、色々なことを教えるのですが、DVの兆候を見つけたら消防士は一体何をしたらよいのか?自分では何もできない、でも毎回コンタクトできる人間がいるのだから、それを活用しようと言っています。DVの専門家を知っているのであれば、コンタクトをせよと教えています。「こちらがDVの専門家の電話番号ですよ」と教えられているわけです。専門家にそこは任せなさいという教育が消防士になされているということです。

つづき
その3


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