2016年5月29日日曜日

優生学と人間社会 第1章の2 米本昌平

第1章の1

続き。イギリスの話です。
◆19世紀後半は、精神病・精神障害者の問題が、社会的に急に重みを増しはじめた
◆初等教育の義務化により、大量の極貧層の子供達が初等教育を受けるようになった。多くの子供達が授業についていけなかったため調査を行い、5万人中9200人弱の精神・神経系の障害児がいることが分かった。これによって特殊学級のシステムが作られた。
◆極貧層の一部の人々は、精神障害という医学的課題とされ、王立精神遅滞保護抑制委員会が設置された。
◆この委員会により精神障害の区分と定義がされ、精神障害の女性の出産・育児が問題とされた。
◆精神障害は漠然と遺伝によると考えられ、一般の女性よりも他産であるとされた。このため精神障害と非嫡出子の子供が増えると考えられ、社会に倫理的危機をもたらす恐れが指摘された。
◆このため強制収容と性的隔離を含む精神病法案が準備されはじめた。
◆優生教育協会(前回参照)が強力なロビー活動を行った結果、1913年精神病法が成立した。

ここはソ連の話です。
◆優生学は極右の学問ではない。この時代、多くの社会主義者や自由主義者が、優生学は社会改革に合理的基盤を与えてくれるものと期待した。
◆新生ソ連にとって科学主義的な優生学は親和性があり、1920年代には強力な優生運動があった
◆1920年にロシア優生学会、1921年にロシア科学アカデミー優生学局が設けられる
◆これらの中心はメンデル派だったが、1925年にラマルク主義的な優生学の提唱者が大きく非難。メンデル主義的優生学がマルクス主義と相容れないとし、ラマルク主義の立場から環境改善による人類の遺伝的改良を主張。
※ラマルクの獲得形質遺伝説
→個々の個体が生涯で体を変化させ、変化の一部がその個体の子孫に継承されることで生物は進化していくという考え。重要な器官は強くなり、使わない器官は退化したり消失する(用不用説)。そして、それは少しずつでも子孫に継承される。

次はアメリカの話です。
◆1904年、ワシントンのカーネギー研究所は、コールド・スプリング・ハーバーに「実験進化研究所」を設置し、遺伝学者のブレークスリーとダベンポートが着任。カーネギー研究所は後にドイツの優生学研究の支援も行う。
◆プラグマティズムの伝統が強いアメリカでは、牛や羊の育種と遺伝現象が結び付いた。アメリカ育種家協会は、1906年に優生委員会を設置、1914年にはアメリカ育種協会がアメリカ遺伝学会に名称変更、遺伝学雑誌を発刊
◆ダベンポートは、1910年鉄道家ハリマンの未亡人の支持を受け、実験進化研究所に優生学記録局を設置。世界で初めて独自の建物・研究設備・専任職員を擁する機関。
◆ダベンポートは人類遺伝に関する膨大なデータを、個人とその家系のカードで収集。優生学記録局でフィールドワーカーを育成し、病院や救貧施設などに配置、カードを作成させ送らせた。これらのデータは、環境要因が大きいと思われる性質など今日からみれば価値のないものが異常に多い

◆優生学には、よい遺伝形質を積極的に増やそうとする積極的優生学と、悪い遺伝形質を抑えようとする消極的優生学がある。
◆よい遺伝形質を増やすための手段は人間には難しいため、現実に行われたのはほとんど消極的優生学。代表例が断種法。
◆アメリカで公式上初の断種手術は、1897年のシカゴ。1902年にインディアナ州の外科医シャープは、アメリカで犯罪者や精神障害者が急増していることを憂慮し、断種の効用を説いた。彼が収容されている犯罪者42人に断種を行ったことが、優生学的断種の出発点
◆傷害罪を避けるため、シャープらはインディアナ州議会にロビー活動を行い、世界で初の断種法を成立させた(後に違憲判決を受けて制定し直された)。インディアナ州断種法は、これに続く州のモデルになった。

独特なカリフォルニア州
◆1909年インディアナ州にならった州法を成立させたが、とくに刑務所の収監者を対象とした。1913年には、州精神委員会が精神病者だと認定した場合、断種された者のみ(両親か後見人の同意書が必要)が施設から出られるとした
◆法の運用面
 1.精神病者一般だけでなく、梅毒患者、性犯罪の累犯者などの罰則に適用
 2.断種実施件数がずば抜けて多い(1921年までには全米の79%、1936年末までには全米のほぼ半数)
◆カリフォルニア州の実績は、ドイツの優生学者に伝えられ、ナチス断種法はこれを十分検討して作られた

◆優生学記録局のローリンは1922年にモデル断種法を発表。手術費用の裏づけ、違憲判断を回避するための優生委員会の設置を盛り込む
◆1927年に連邦最高裁
「犯罪傾向の子孫を放置し、精神遅滞の子供を餓死に追い込むのを座視するよりは、社会が、明らかな不適応者が子供を作らないようにすることは全体にとって善である。強制的な種痘の法理は、じゅうぶん輸卵管切断にまで拡大しうる」


第1章の3








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