その2
◆あらゆる宗教の教祖に共通することは、その生涯ある時点において、<ひかり>との出合いがあることである。
◆今日の既存宗教教団などに見られる混迷は、生き方の会議ばかりが忙しく、行き先が明確でないところに問題があるようだ。イメージが、はっきりしていないのだ。
◆あらゆるものへ感謝があふれ出る現象を、回向のことであると言ったが、この回向こそが、浄土真宗の根幹をなす思想なのである
◆親鸞は、「教行信証」の冒頭に、
謹んで浄土真宗を按ずるに二種の回向あり
一つには往相、二つには還相なり
と、浄土真宗の最大の特徴は、二種の回向であると書き出している
◆親鸞以前までの回向は、自分の積んだ善根を仏の方へさしむけることであったが、親鸞は逆に、仏の方から衆生の方へ向かうのが回向であるとした。
◆仏派の感謝が往相回向で、その仏からの慈悲が還相思考であるとし、この二種の回向がおのずから同時にはたらく現象を、光如来の本願ととらえた
◆親鸞の思想の大きな特徴の一つは、光如来に出合って<死即仏>となること。如来によって死即仏となるから、引導もいらないし、位牌も、手甲脚絆も、六文銭も、杖もいらない。三途の川も閻魔大王も関係ないから、追善供養も必要ない。だから真宗では追善供養と言わないで、法要とか報恩講といっている。
◆しかし、中有まで完全に否定したのではない。
◆我が国のほとんどの宗教では人が死んでも霊魂がさまようことが前提となっている。しかし、親鸞は何日間も、何カ月間も、さ迷う霊魂に関しては完全に否定していた
◆さんたんたる景色(現世)を横目で見ながら、すきとおる空(浄土)へと直行するわけで、死はどこにもない。そこには死もないから<往生>という。死さえなかった。あったのは大涅槃だけであった。
◆釈迦の説いた仏教の教理は、すべて実践との関係においてのみ意義が認められているのであって、実践に関係の無い形而上学の問題には、釈迦は答えられていない
◆親鸞の阿弥陀信仰は、どのような者でも<無碍なる不可思議な光>に必ず出合えるという絶対の確信からきている。そして中途半端な修行など、当時の庶民の生活苦よりお粗末であることを、比叡山の山中で二十年もいやというほど見せつけられてきたのである
◆釈迦のような苦行をするならともかく、中途半端な修行の途上にいながら、さも覚者のような顔をして成仏の引導まで行っている。このことは、八百年前の親鸞の時代も今日も、さして変わりなさそうである
◆詩人たちは一様に、物への執着がなく、そのくせ力もないのに人への思いやりや優しさが目立ち、生存競争の中では何をやっても敗者となり、純粋で美しいものにあこがれながら、愛欲や酒に醜く溺れ、死を見つめているわりに、以上に生に執着したりしている
◆生を維持するために他の生を犠牲にして生を保ってゆくしかない。そんな中で、菩薩が人間の肉体を備えたままその生を維持してゆくこと自体不可能なことである
◆源信、法然、明恵、道元、一遍、親鸞、これら高僧たちはおしなべて、十歳未満で父母との別離に出会っている。蓮如も、幼い日に母との別離があった。こうした幼い日の悲しみの光は、いつまでも残り、その人生に大きな影響を与えてゆく
◆今日の科学は、哲学や宗教をのり越えようとしている。とは言っても現在のところ、哲学や宗教が停滞しているためそのように見えるだけで、実際は科学でわかった範囲など微々たるもので、のり越えるどころではない
◆宗教がどれくらい科学の立証に耐えるかによって、今後の宗教が歴史に残るかどうか決まるかもしれない
◆<死>は医者が見つめ、<死体>は葬儀屋が見つめ、<死者>は愛する人が見つめ、僧侶は<死も死体も死者も>なるべく見ないようにして、お布施を数えているといった現状があるかぎり、今日の宗教に何かを期待する方が無理と言えよう。
◆宗教が現場の死生感を説くことができなくなったとき、その宗教は生気が失われ、滅びへ向かうのは当然である
◆死の不安におののく末期患者に安心を与えることができるのは、その患者より死に近いところに立たない限り、役に立たないということになる。たとえ善意の優しい言葉であっても、末期患者にはかえって負担となる場合が多い
つづき
その4
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