2017年1月12日木曜日

人間における勝負の研究 米長邦雄 6

前回
その5

◆不利になってもチャンスは必ず来るもの。したがって、そのチャンスが来るということを念じながら、じっと様子をうかがっているのが正解
◆形勢を逆転するためには、実力が伴わないとむずかしい。相手が間違えた時に、それを確実に咎められるかどうかが、ウデの見せどころになる
◆不利な時に騒ぎ立てるのが一番まずい。次にまずいのは、形勢が悪いのに、ただじっとうなだれていることで、これではそのまま終わりということになる。一番いいのは、じっとしていても、その姿勢が反撃のためのエネルギーを貯えている形。それが「勢い」になる

◆あくまで、歩の動きは王様の都合で決まる。逆に王様のほうから言えば、一歩の動かし違い、一歩の損が、最終的に自分の運命を左右することを知っておくべき
◆悪手を連続すると、取り返しがつかなくなる。だから、一度ミスをしたら引き返せばよいのですが、人間というのは一回ミスをすると、引き返せなくなる。ミスしたぶんを、先を急ぐことで取り返そうとするから
◆プラスからマイナスに転じたことで頭に血がカーッと上ってしまう。そういう時に、私はトイレに行くとかして、外の景色を見るとかして、気を鎮めます。それから時間をかけて読めば、優勢とか不利だとかいっても、特にどうという決定的な差はないことに気が付く

◆私は負けてくると、やたら遊びほうける。そして、それが一番いい薬だと思っている。勝っているときには、その波を長く持続させようと思って、大切に大切にいく
◆カンが狂ったときの一番いい手当は、自分のベストの状態の感覚を自分に思い起こさせるというあ、自分の目にそういうものを見させてやること。具体的には、買った将棋を並べる。それも強い棋士と戦って買った将棋だけを、次から次へとたくさん並べる
◆将棋だけに夢中で専念していられればいいのですが、いろいろな人と会わなければならないし、そのことから、よかれ悪しかれ将棋への影響を受ける。その人との付合いが私の将棋にマイナスになると思ったら、断乎、付合いを止める

◆夫婦というのは、別れないかぎり運命をともにすると考えていい。ですから、私が勝つか負けるかで一番影響を受けるのは女房です。その次は誰かというと、普通は、たいてい母親です。
◆こちらが神経を使わねばならない人に会うのは、不調の時はよくありません。また初対面の偉い人と会うのも、よくない。

◆将棋の勉強は一人でする方がよい。二人以上で検討会をするのが、現在、流行っているようですが、私に言わせれば、あれは研究の時間ではない。ただ将棋に触っている時間があって、プロ棋士にとって、そういう時間は質的にはゼロ
◆女性と一緒にいると男はどうしても見栄というやつに動かされてしまう。そして、勝負に一番まずいのは、この見栄を張ること
◆名人戦のような大きな勝負をやっている間は、世のため人のためというとカッコよすぎるかもしれませんが、とにかく私利私欲とは無縁の仕事しか引き受けない。そういう時期には、目先の個人的な利益よりも、もっと大きな視野の判断基準で行動する。そのほうが長い目で見た時に、結局は「トク」をする

◆ごく当たり前の方法だが、大事なのは一日一日を今日は何のための日であるか、はっきり意識して過ごすこと。
◆遊びは遊び、と区別しなければいけない。聖書の"カエサルのものはカエサルに返せ"という言葉ではないが、遊びで儲けたお金は遊びに使うべし、というのが基本的な考え方

つづき
その7




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