2016年9月6日火曜日

世界医師会長マイケル・マーモット日本講演書き起こし その1

いずれ日本医師会さんのHPにアップされるとか言ってたような。
それまでの繋ぎとしてどぞ。

※9/16 その4 質疑応答アップ予定。

※9/23 日本医師会さんのサイトで動画がアップされました。
お時間のある方は映像でもご覧になって見て下さい。
そしてまた是非こちらのブログにも遊びに来て下さい。笑

日本医師会HP


 ありがとうございます。はじめましてにあたって、あるエピソードをお話しましょう。ある日電話がありました、少々忙しくしていたのですが、相手はイギリス医師会のCEO、彼は言いました。
「イギリス医師会の会長になってもらいませんか?」

そこで言いました。
 「おそらく電話のかけ間違いでは?私はマイケル・マーモットですよ。私がイギリス医師会の会長になどなれるわけがありません」。
 「いえいえ、正しい番号です。いえ。まさに先生と話がしたかったのですよ。」
 「 私の仕事をご存知ですか?」と伺いました。
 「私が力を入れているのはSDHですよ。健康の主要な要因は医師・・・(音声不良20秒)・・・」

 日本の医師会とBMAの会長というのは違います。日本医師会の会長さん、非常に重要ですけども、どちらかというとイギリス医師会の会長職というのはそれほどの重要性は持ちません。まあ、名誉職のようなものです。でもそれでも「やってください」とおっしゃるのです。

 そこで、申し上げました。私は「各学会の会長と、セミナーやディナーで議論をしたい」と申し上げました。「そうした各学会の会長が、SDHに関与する必要があると思うからです」と申し上げました。そしてそのディナーは実現しました。精神医協会、それから小児科医協会、さらには公立内科医協会、それから公衆衛生、あるいは産業医、公立看護師協会、こうしたところがいずれも私の主張に耳を傾けてくれました。認めてくれたのです。

 本日は、その中から公立産婦人科医協会との取り組みについてご紹介したいと思います。理事会が行われた際に招待を受けました。理事会に対して話をしました。その後で、そのメンバーの1人がおっしゃったのです。「この話は、かつても聞いたが何も起こってはいない」とおっしゃるのです。

 しかし、その3ヶ月後再び招待を受けました。今度は朝食会でした。最高の朝食会でした。なぜなら、その時には、公立産婦人科医協会は、「女性の健康を将来に向けて取り組むべきこととして取り扱うべきである」とおっしゃったからです。なんと素晴らしいと思いました。

 そこで今晩は、ちょっと暖かいので上着を取らせていただきますが、本日お話を申し上げたいのは、まず第一に日本における健康の不平等について。日本においてさえもそれは存在いたしますので、それを取り上げてほかの国と、特にアメリカ及び英国と比較してみたいと思います。その後で、こうした産婦人科医のみなさんと話をしていた内容に深く踏み込んでみたいと思います。health gapという本を書きました。是非ご親戚のためにお買い上げいただきたいと思います。クリスマスに向けて。

 最初にこの中に書いたのは、せっかく治した人を、そもそも病気にした状況になぜ送り返すのか、と問いました。WMAの会長として、私はこれまで韓国医師会、世界各国の医師会をこれに巻き込もうとしてきましたので、日本医師会様に招待を頂いたのは、非常に嬉しいことと思っております。もちろん医師は病人を治療するわけですが、しかしWMAの医師には、是非人々を病気にしてしまう状況にも対応していただきたいのです。

 さて、もう一つ持続可能な発展のための目標です。SDGというアジェンダがございます。その中で1つ健康な生活Well-beingをすべての年齢で、と明示していることが一つございます。SDG自体は17あるのですが、その多くがSDHに関連しています。例えば貧困に関する目標があります。貧困な家庭に生まれた子供が5歳までに死んでしまう確率が、豊かな家の子どもよりも2倍もある。あるいは先進国に比べて、発展途上国においては母親の死亡率が14倍も高いとか、あるいは若い女の子たちの初体験の多くが強姦であったとか、そうしたことが課題になっており、女性の健康に大きな関連を持っているのです。

 日本について考えてみましょう。日本の疫学者の方の調査ですが、所得格差による健康格差を、男性・女性に関して経時的に見ています。黒が男性、赤が女性ですが、こちらのほうが絶対値と相対値で見ているのですが、どちらにしても同じことですが、低所得な人たちが不健康になる確率がだいたい1.5倍から2倍あるということですが、それがそれほどは大きく変わってはおりません。この日本における勾配は、経時的に見てもそれほど大きな変化は無いのです。ですから日本においては、課題があるとしても、世界的な標準からみれば、それほど大きなものではありません。

 こちらはSESという社会経済的なクラスを示しています。職業に基づいたもの、それから上で示しているのは所得ベースで見た表でした。高齢期における機能の障害ということで、これは非常にひどいスライドで非常に申し上げないなと思っております。どなたかからお借りしたものですけども、SESつまり子供時代にどのような社会経済的なステータスにあったかということで、65歳から69歳になった段階で、高所得であったのをreferenceと取りますと、中所得であった場合、子供時代の場合ですが、1.2倍も機能的な制約をこの年齢で受けやすい。また中低所得であれば1.4倍くらい高くなるということです。さらに高齢になりますと、1.31倍となっています。ですから子供時代の社会経済的なステータスによって高齢期における機能障害が予測できるということです。

 成人になってからのSESを見てみます。これを見ますと、割合は少し減ってきます。すなわち、子供時代のSESというのが、大人になってからの機能的な制限の予測要因となっている、すなわち子供時代にSESが低ければ、それも成人になってからのものに影響があるということを示しています。日本においても、このような機能障害でありますとか、有病率に関しては影響が存在するということです。

 さてこれは、大阪で行われた喫煙に関する研究でありますけども、日本では喫煙率が非常に高いということですが、社会的なことがここにもあります。教育水準によるものです。すなわち中卒の場合59%が喫煙をするということです。そして学歴が高ければ高いほど、つまり高卒ですと50%であったり、そして院卒であれば17%ということで少しずつ下がるわけですけどまだ高いと。女性の場合には、喫煙率は非常に低くなりますけど、ここにも勾配が存在します。教育推進によるものです。

 さて、喫煙というものは、日本では非常に安くできるという要因があります。つまり、喫煙をするのに、タバコを買うのに必要な労働時間ということで比較をしますと、1箱のタバコを買うのにかかるコストというのは11分働けば賄えるということです。2009年のデータであります。オーストラリアは27分、オランダであれば31分の仕事をしないとタバコは1箱買えないわけであります。そして、この研究によりますと、日本政府はタバコの価格をかなり大幅に引き上げるべきであるという提言が出ております。あまりにも安過ぎるということであります。従って、何か対策を講じるのであれば、この社会的勾配を是正したいのであれば、このように課題を挙げるということになります。つまりタバコを喫煙するということが不健康の要因になっている、そして何故タバコを吸っているかという原因に対して対応をしなければいけないということで、これも健康の社会的決定要因の一つであります。

 さて、全体的な文脈ということで考えていきますと、私が申し上げたい重要なポイント、メッセージというのは、やはり健康における格差というのは必ずしも不健康という意味では最も貧困層が一番病気だということだけではなく、勾配が存在しているということです。これはアメリカのデータです。出生時の平均余命ということで男性、女性、これも教育レベル別に見ています。白人女性に関しては、もちろん学歴が高くなれば高いほど余命が長くなります。黒人の女性も同様です。そして白人の男性、黒人の男性、全て勾配が存在しているわけであります。白人、黒人そして男性、女性、そしてこの教育水準ということで、このように平均余命がどのように長くなるかという勾配がはっきり見て取れます。こう考えていきますと、一番の均衡な層だけを見るのではなくて、全体的に対策を考えなくてはいけないということになります。

 こちらはアンケースン(?)、そしてリートン(?)らがニューヨークタイムズでまだこういう研究をしている人がいますので発表したないようですけども、去年の数字であります。45歳から54歳の死亡率を見てみます。そしてイギリス、カナダ、オーストラリア、スウェーデンという数字がそれぞれ出ておりますけども、このように45歳から54歳の死亡率というのは下がってきています。フランスとスウェーデンには大きな差があります。スウェーデンの方がずっと低いということが分かります。フランスと比べてずっと低いです。しかし全ての国において数字は下がりつつあるわけです。

 USHとあるのはアメリカのヒスパニックです。そして赤で示してあるUSWというのはヒスパニック以外の白人ということです。アメリカの数字です。この線をご覧下さい。このグループでは死亡率が逆に上昇しつつあるのです。これはただ単に医療の問題ではありません。つまり医療の課題ということではないのです。死亡率が上がっている、上昇している原因は何かということを探ってみますと、45歳から54歳の男女において、一番大きな原因というのは、ドラッグ及びアルコールの濫用であります。中毒ということです。そして2つ目が自殺、そして3つ目の原因というのがアルコールによる肝疾患です。そしてそれ以外に様々な暴力による死亡というものが続きます。これはemploymentがされていないことによる死亡率の上昇であると私は申し上げたいと思います。そして社会的な勾配というのはより急進になってきているということが分かります。格差は広がっているのです。つまり、最も困窮しているグループだけではなくて、死亡率の上昇というのは全てのレベルにおいて影響があるということを考えなくてはなりません。

 さて、よく聞かれる事ですが、国としてより豊かにならないと健康になれないのかということです。答えとしては確かに、非常に貧しい国であれば答えはイエスであるけれども、そうでなければ正しいことではないということです。これは1人当たりの収入ということで、GDPを見ているわけなのですけども、PPP(購買力平価)で調整をしております。つまり購買力で平均を見ている感じです。そしてこちらが平均余命です。何が分かるかといいますと、非常に貧しい国々においては、ほんの少しでも収入が上がると、それによって平均余命が大きく跳ね上がるということです。これは利に適っていると思われます。つまり少しでもお金が入ってくれば、そのお金を例えば水をきれいにしたり、あるいは衛生に、食べ物に使うことができます。従ってそこに大きな違いが生まれます。

 しかし、1万3千ドル、1万2千ドルくらいのレベルまで行きますと、これは一人当たりのGDPということですけども、ということはキューバ、コスタリカ、チリあたりです。こういったところと、例えばルクセンブルク、これは7万ドルですけども、そこと比較してみましょう。基本的にはここと全く差がありません。つまり1人当たりの収入が増えても、寿命は伸びないのです。日本はここです。アメリカはここです。ということで、アメリカの方に行きますとほとんど逆行しているようなトレンドが見て取れます。つまり一旦コスタリカの水準に達してまった後は、それ以上収入が増えても、GDPが増えても関係があまりないということです。それ以上健康の増進はされないということになります。そして健康の増進ということで考えた場合には、これは社会がどれだけ幸福であるかの良い指標だと思います。経済的な成長が何故重要か、それを我々は追求したいのかということを考えて見ますと、何故それが重要な指標になっているのか。国の性格の物差しになっているのかということを考えていただきたいと思います。経済成長によって必ずしも健康は約束されないということがここから実は分かるのです。コスタリカのレベルにいけばもう平均余命ということではアメリカと同等レベルまでくるわけです。所得のレベルが全く違っていても、健康のレベルにはもう差はありません。やはり重要なのは、収入以外の健康の社会的決定要因です。

 例えば、イギリス。これは英国のデータですけども、地域社会がどれだけ貧しいか、あるいは豊かであるかということを見ています。左の方が貧しい、右の方が豊かということです。そして上の方のグラフが平均余命です。ご覧のように明らかな勾配が見えます。地域社会が豊かであればあるほどより平均余命は長い、そしてどんどんそれは所得に応じて低くなっていくということであります。そして下の方にあるのが障害なしの平均余命です。緑色です。勾配はより急進になっています。上の方にいれば、およそ障害ありの平均余命は12年であって、そして下の方、一番左の方にいった場合には、障害ありの平均余命は20年くらいであるということです。つまり余命、寿命の長さだけではなくて、QOLの違いが非常に大きいということ。そしてこれが、社会的階層との強い関係があるということです。勾配であるということが、ここに関わっている我々全員に関係があるわけです。

 これはイングランドでもちろん計算をしたわけですけども、真ん中あたりにいらっしゃる方々というのは、基本的には障害なし平均余命が一番長い人よりも8年短いわけです。例えば握力が弱くなったりとか、あるいは歩行が難しくなったりだとか、あるいは認知能力が下がったということがより早く起きる、8年早く起きるということになります。そして平均余命自体も短いということになります。中間層であってもそうなんです。勾配があるということは格差がある。従って社会全体を是正する必要があるということを示しています。

 さて、2つの場合に分けてお話をしておりますけども、まず最初に申し上げたかったのは、日本、アメリカ、そして英国などにおいては、健康に関しては勾配というものが存在する。そして勾配の傾きというのは日本ではそれほど急進ではないかもしれない。アメリカの方が急進かもしれない。そしてイギリスは日本とアメリカの間位かもしれないということですけれども、こういった勾配によって、我々全員1人1人が影響を受けるということです。最貧国だけではありません。
 さて、産婦人科協会と協力して色々と活動しておりますけども、世界的な学会で話をするように言われました。つまり臨床家としてこの話は是非聞くべきだと協会の方が動かれたのです。ということで、これは女性の健康です。イギリスのデータですけども、16歳から64歳ということで精神疾患のリスクありと判断された人口の比率です。そしてこれを所得レベルによって4つに分けています。そしてどのカテゴリーにおいても、女性の方がリスクが大きいということが分かります。そして健康障害が何人くらいになるかということに関しても、これは貧困スコアで見ていきますと、貧困のレベルが大きければ大きいほど健康障害を患う年数が長いということが分かります。これも勾配です。これはつまり、女性が健康障害による状態で生き続ける期間というのが長くなってきている、というのは死亡が減少しているスピードほど有病率が減少していないからです。ということで、より長い期間病気を患って生きるということになってしまうわけです。

 さて、産婦人科医の方々に対して私がお話したのはこういうことです。皆さんは健康な赤ちゃんを出産するお手伝いをしています。そしてその赤ちゃんというのは、その後成長して、母親になったり父親になったりするわけです。どのような母あるいは父になるかということ、これが何に影響を受けるか、これは経験によるところが大きいわけです。例えば、teenagerの母親の方が出産の結果が悪いということが分かっているわけです。つまり、これは下の方がカットオフされて見えませんけども、右の方は肉体労働者、そして左側が管理職ということで社会的な関係で3つに分けています。15歳から19歳の若い女性の出産総数に対する出産率を見ているわけです。明らかに社会的な勾配があります。つまり、より困窮していればしているほど、teenagerの妊娠の数が多いということであります。というわけで、これをお見せして私はこう申し上げました。こういったことを先生方としては憂慮すべきではないでしょうかということを申し上げたわけです。

 ヨーロッパにおいては(イギリスが※筆者注)10代の妊娠率が一番高いのです。医師が関わらずにいてよいのでしょうか。もちろん通常の臨床とはかけ離れた話かもしれません。また5歳以下の乳幼児の死亡率です。1990年はこちらです。色が濃ければ5歳未満の死亡率が高いということを意味します。1990年です。色を覚えておいて下さい。そしてそれが2015年にはどうなったか。世界中で健康率が上がっています。5歳の小児死亡率に関してはかなりの改善が見られました。そしてそれに対する関係が一番大きかったのは、教育です。女性の教育です。すなわち女性に対するエンパワーメントこそが乳幼児死亡率を引き下げたのです。女性へのエンパワーメントのベースとなるのが女性への教育です。こちらをご覧下さい。中等の教育以上を受けた女性と、教育を受けていない女性との間で、色々な国において乳幼児死亡率がこれだけ違います。中等教育を受けた後の女性は、教育を受けていない女性に比べて乳幼児死亡率がかなり低いのです。女性の教育を世界的に改善するということこそが、乳幼児死亡率の世界の削減に一番大きく貢献したのです。

 全ての子供が生き残れば子供でいっぱいになるのでしょうか。これはその出生率です。女性が教育を受けたレベルによって変わります。バングラディッシュでは3.0から2.5、インドは3.6から2.1、初等教育であれば2.6です。エチオピアでは6.1に対して5.1人もしくは2人となっています。ですから子供いっぱいになった世界を避けたいのであれば、女性に教育を施すべきです。選択肢が生まれます。少ない数の子供を選ぶようになるのです。ナイジェリアではしかし、それでも4.2人となっていますが。


つづき
その2



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