2015年10月27日火曜日

まとめ「“いのち”をめぐる近代史―堕胎から人工妊娠中絶へ」岩田 重則

◆筆者は静岡県の新聞や、裁判の判例をまとめた文献を整理し考察を与えている。特に明治維新以降から、1930年代頃までの堕胎について考察している。
少なくとも一度は命を持った全ての胎児のうち、生まれてくる胎児と、堕胎され生まれてくることができない胎児と2つに選別される現実があった。出産後のことではなく、既に出産前から命が選別されていた。生まれてきた命は実は選別された後の命ではなかったか。
〇世界市場への進出を伴う日本の近代産業の確立を支えた労働者あるいは労働者予備軍こそが、松方デフレ以降農村から析出されていった没落中農層および小作層、なかんずくその娘たちであった。彼女らが資本主義的生産関係をそのもっと基底を支えていた。
〇資本主義的生産関係が形成されつつある社会で、しかし、未だ前資本主義的生産関係が残存する社会の末端で、生き抜いていかなければならない女たち・男たちがいた。それは、独身であろうと既婚者であろうと、本質的な差異はなかったことであろう。彼女ら・彼らが、そうした社会的社会経済的条件のもとで、命の選別に直面せざるをえなかったこと、それが紛れもない現実であった

◆堕胎手術は農村地域などには女性たちの会話に登場してくるほどポピュラーで、堕胎手術を行うものは雑業層、あんま、鍼灸等で、男性もいた。また、自らが堕胎を経験した女性が行う場合もあった。代金としては小額の金銭、作物などであった。
〇堕胎手術者がこうした雑業層であったことは、地域社会の中下層に堕胎をめぐる社会環境が存在していたことを物語ると言って良いだろう
〇このように周旋人がいて、彼らが周旋料金を受け取っていることは、地域社会の中に、堕胎手術をめぐる闇ネットワークがあった可能性を推測させてくれ
〇堕胎手術を行った女の子供時代にも、堕胎は常習的であったというのである。そしてさらに、この女は、こうした堕胎手術方法について、それを子供時代に母親から聞いていたとして、次のように述べている・・・子宮内に異物挿入することによる堕胎させる技術を、この女は母親から伝承していたことになる
〇(堕胎手術を行った)この女の場合若年期に他人の手により堕胎手術を受け、また、自分自身でも堕胎手術を行った経験を持っている
〇堕胎手術の妊娠ですが、妊娠5カ月が最も多く、それよりも妊娠月多い事例もあるのか。また現実の人口妊娠中絶をめぐる一般的認識と異なるのか。それはその堕胎方法が、こうした強制的流産とでも言うべき人為的手段であったためであると考えて良いと思われる

◆堕胎罪は存在していたが、執行猶予が付くことも多く、その刑期などは曖昧であった。
◆農村における夜這いの習慣、資本主義的主従関係を利用した関係、私通などにより妊娠した。
◆特に農村部の貧農層や工女などは経済的理由により堕胎を行った。
〇1900年前後から1910年代前半に至る時期に行われていた堕胎の多くは、婚姻関係の中にあったのではなく、また、家族計画として行われたものでもなかった
〇1899年7月18日産婆規則が公布され、それまでの医制によって各地方官(道府県)に任されていた産婆法規に変わり、日本の近代国家において初めての統一的な産婆法規が制定された

◆産婆規則が制定され、今までは堕胎手術を行ってきた地域の堕胎手術人を排除した。また、堕胎手術費用の上昇から、全体の所得が向上したことが伺える
〇近代産婆の定着は、ジェンダーとしての近代産婆の形成とでも言うべきか、出産を巡り男産婆が排除され、産婆イコール女という固定観念が定着する過程でもあった。そもそも1899年の産婆規則は産婆の資格を満20歳以上の女子限定しているので、近代産婆は、制度上、男を排除している
〇保健師の仕事でも言うべき巡回産婆はやがて市街地から周辺農山漁村地域へも広がりを見せていく
〇1910年代から1920年代医師による堕胎が増え始め、したがって、その手術方法についても、社会伝承的な土台というよりも、人工妊娠中絶に近い手術方法がとられてとられるようになってくるのが、この時代である

◆堕胎罪は、女性は堕胎を行い刑期に服すことが多い一方、男性は逃げれば罪に問われることも少なく、女性および手術者のみ罪に問われることも多かった。
〇女が生命の危機を犯してまでも堕胎を行う一方で、男はその堕胎事態を回避できる場合が多く、また、男は近代刑法における堕胎罪に問われなくても済む、そうした、社会環境のもとに置かれていた事であった


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