先日、赤十字の経営体制強化の記事について書いた際に紹介した本。
BCGが現在の医療制度下で強い病院を作るための分析を行い、赤十字病院をコンサルし、日本の医療制度や一般の病院経営の問題点まで考察するというもの。
データ、分析、ロジック。
これらのツールで医療界に多いフワッとした議論に切り込んでいくところは興味深い。
◆わが国では病院の経営者である院長は医師でなければならず、医療のプロではあっても必ずしも経営のプロではない
Chapter 1
◆後期高齢者医療制度導入前の老人医療費は、老人保健法に基づいて、各健保からの老人保健拠出金と公費でまかなわれていた。
◆保険財政が赤字になるほどの医療費が注ぎ込まれているにもかかわらず、多くの病院が赤字経営を余儀なくされているのが現状
◆日本の医療機関経営の大きな3つの特徴(データは本を読んでみてください)
1、医師数が少ない
2、勤務医の給与水準が少ない
3、受診回数の多さ、平均在院日数の長さ
◆過去20年間、国民医療費は着実に伸びているがGDP(支払能力)はほとんど伸びていない。
◆医療費支出を増やすことでどのくらいの経済波及効果があるかは、産業連関表を使えば簡単に分析可能
◆医療費を伸ばして経済成長をという議論は、国民の情緒に訴えるストーリーではあっても、マクロ経済的には論拠が弱い
Chapter 2
◆緩やかではあるが、病床数が多い大規模病院の方が医業収支率が全般的に高い傾向にある
◆総合病院として一定の診療科数を維持しようとすると、規模の小さな病院ほど、スタッフ人件費(固定費)の割合が大きくなる
◆日本の200床以上の病院には総合病院が多く差別化されていない。少なくとも一般の患者には特徴が見えにくい。
◆固定費の大半は人件費であり、削減しようと思えば、スタッフの数を減らすか1人当たりの給与水準を引き下げるかしかない
◆平成21年度の調査では病院における外来収入は、全収益の3割弱にとどまている。
◆大きく収支を左右する因数は、人件費、材料費、在院日数、および病床利用率の4つ
◆400床未満と400~600床の施設では、赤字解消のために必要な薬剤費や材料費の削減率が大きく異なる
◆在院日数と病床利用率の改善を通じて医業収益を上げることが、少なくとも短期的には経営改善に向けた唯一の有効な戦略
◆2つの迷信
1、在院日数削減と病床利用率はトレードオフ
2、在院日数の短縮で医療の質が下がる
◆この2つがもっともらしく聞こえることもあり、日本の病院経営改善の焦点は、変動費の改善に目が行き過ぎている
◆在院日数と病床利用率の改善には医療行為の本質に切り込んだ改善が必要
Chapter 3
◆思考の罠:一見もっともらしいが、実は本質的な病院経営改革を阻害する考え方
1、症例は千差万別、医療は標準化にはなじまない
2、専門分化で高度な医療サービスを提供
3、在院日数が長期化しがちなのは、患者の受け入れ先確保が難しいから
4、病床利用率が上がらないのは、患者がいないから
5、在院日数短縮化は病床利用率向上の敵
Chapter 4
◆パスの対象疾患、設計方法、対象範囲、実行保証の仕組みの4つの点で、エクセレント・ホスピタルと平均的な病院の間には大きな違いがある
◆DPCコードは、疾患ごとに設定されているため、コードごとにパスを定めることが望ましい
◆エクセレント・ホスピタルでは、プロセス標準化の際に時間の概念も入れ込み、「入院後何日目に何をするか」が明確になる
0 件のコメント:
コメントを投稿