前回
その1
◆僕は、ひとが安物のスーツケースを持っていられると、その人までいやになりかねないんんだな。その人を見るのがいやなんだよ。
◆金の野郎め!いつだって、しまいには、必ずひとのことを憂鬱にさせやがる
◆この博物館で、一番良かったのは、すべての物がいつもと同じとこに置いてあったことだ。誰も位置を動かさないんだよ。何一つ変わらないんだ。変わるのはただこっちのほうさ。
◆僕には、退屈な男ってものがわかっていないんだ。すばらしい女の子が退屈な男と結婚するのを見ても、あんまりカワイソがることはないのかもしれない。退屈な男といったって、たいていは、ひとを傷つけるわけじゃないし、それに、ひょっとしたら口笛の名人やなんかだったりすることもあるわけだからな。わかったもんじゃないよ。とにかく僕にはわかんないね。
◆何でもそうだけど、あんまりうまくなるとだな、よっぽど気をつけないと、すぐこれ見よがしになっちまうんだ。
◆いつか、君、男の学校へ行ってみるといい。インチキ野郎でいっぱいだから。やることといったら、将来キャディラックが変えるような身分になるために物をおぼえようというんで勉強するだけなんだ。
◆大学やなんかへ行ったりした後では、すばらしいとこへなんか行けやしないって言ったのさ。ぜんぜん変わっちまうよ。
◆女の子の困ったとこは、男の子に好意を持つと、そいつがどんなに下司な野郎であっても、劣等意識を持ってるって言うんだな。反対にきらいな男の子だと、どんあにいい奴であろうと、どんなに劣等意識を持っていようと、そいつのことをうぬぼれてると言っちまうんだ。頭のいい子でさえ、そうなんだから。
◆隣に女の人が坐ってて、これが映画の間じゅう、泣き通しなんだよ。映画が嘘っぱちになればばるほどますます泣くんだな。そんなに泣くのは、その人がすごくやさしい心の持主だからと思うだろうけど、僕はすぐ隣に坐ってたんだが、違うんだね。この女の人は子供を連れててね、その子がひどく退屈して、おまけにトイレに行きたくてたまんないのに、連れて行こうとしないんだ。じっと坐って行儀よくしてろって、そう言うばかしなんだ。
◆知的な連中というのは、自分がその場を牛耳るんでないかぎり、知的な会話をしたがらないものなんだ。自分が黙るときには、きまって、相手にも黙らせたがるし、自分が自分の部屋へ引き上げるときには、相手にもそれぞれの部屋へ引き上げさせたがる。
◆人を憂鬱にするには悪人でなければならんということはないからな。善人だって人を憂鬱にできるんだから。
◆死んだからというだけで、好きであるのをやめやしないやね。ことにそれが、知っている人で、生きてる人の千倍ほどもいい人だったら、なおさらそうだよ
◆たいていの場合は、たいして興味のないようなことを話しだしてみて、はじめて、何に一番興味があるかわかるってことなんです。
◆堕ちて行く人間には、さわってわかるような、あるいはぶつかって音が聞こえるような底というものがない
◆学校教育には、他にもまだ、君の役に立つことがある。相当のところまでこれを続けて行けば、自分の頭のサイズはいくつかということが、わかりかけてくるんだ。何が自分の頭に会うか、それから同時に、何が合わないかということもたぶんね。しばらくうちに、特定のサイズを持った自分のこの頭には、どんな種類の思想をかぶったらいいかということもわかってくる。
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